22時38分13秒のブルー
届きそうで届かない。棚のうえに、自分でもどうやって置いたのだろう。言葉の断片が散らばっている。
それをなんとかなんとか、一番したの段に足をかけたり、最終的には台所の踏み台なんかを持って来て取りもどす。
時間がまた動き始めるような感触が、手のひらにじわっとにじんで、一瞬だけ、喉の奥がかっと熱くなる。
その熱をたよりにまた、言葉を散らかしてはまた拾い集める。
そんなふうになるのはきまって、まだそんなに深くない夜の頃おい。
ちょうど時計は22時38分13秒を指している。
庭の先に小さく咲いた白い花が、夕方の雨でひっそりと濡れたまま。ちいさな光をたたえて、しずかにほほえんでいる。
いまごろあの人はどうしているのかしら。
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コーヒーはたっぷりといれてあるから、夜はまだはじまったばかりだ。
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とおくとおく、はるか昔、海底の記憶をよみがえらせるために、夜はやってくる。
たくさんの意識とか感覚とか記憶がやってくる。
水の流れる音のような、水の中で聞こえるような、不思議な音のうずに巻き込まれてしまう。
戻れなくなってしまった今日のことを思う、昨日のことを思う。一昨日のことを思う。
1日のおしまい。1日のおしばい。明日の台詞はもうおぼえているのかしら。
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毎日の生活では、定期的に青い色がやってくる。
それは、彼のシャツの色だったり彼女のスカートの色だったり、うたとかことばだったり、おとやひびきだったりする。
そんな青い色は誰にでも簡単につかまえることができて、そんなに必要じゃなくっても、ついつい手にしてしまったりするからやっかいだ。
いったん青い色をもってしまうと、手のひらやしまっておいたポケットの中が、すっかり青い色になってしまって洗っても洗っても落ちやしない。
それならば一緒に過ごしてしまえ、みんな青い色になってしまったらいいのだという気持ちが、地球を青くしたんだっていう話は聞いたこともない。
ただ、ぼくの青い色はときどき誰かが魔法のようにすっと消し去ってくれるし、きみの青い色はぜんぶボクが引き受けてあげるからね。
なんていうつもりじゃぜんぜんなかったのに。
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カーテンを開けると、今日は月が明るいので、部屋の明かりを消す。かさかさと何かが動いたような音がしてはっとして静寂。
ひとつの音と、一定のリズムで展開する今夜の音が、じんわりとおりてくる。
たくさんの光を内包したその音が、耳のあいだをすりぬけていく。
目をつむってしまったことに気がついて、壁の時計にふりかえる。
夜光塗料のぬられた3本の針が、無機質にぼんやり輝いている。
ちょうど時計は22時38分13秒を指している。
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